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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)848号 判決

被控訴人 紀陽銀行

理由

一、管轄違の抗弁について。

控訴審においては当事者は専属管轄を除き第一審裁判所が管轄権を有しないことを主張することは出来ない(民訴三八一条)。よつて控訴人らが第一審における管轄違の抗弁を維持したにしても第一審裁判所が結局判決をした以上控訴人らはもはや控訴審においてその主張を維持出来ないものといわねばならない。

二、本案の判断

第一、控訴人健二に対する請求について、

(一)  控訴人健二が本件手形三通を振出したことは同控訴人の自認するところである。そして(証拠)を綜合すると本件各手形には被控訴人主張のような手形要件の各記載があり、同控訴人はこれをその振出日附の日に訴外友井年昭に振出交付し、同訴外人は更に訴外寒川寿栄男にこれを割引依頼のために昭和三七年六月一七日本件各手形を拒絶証書作成義務免除の上被裏書人欄を白地として同訴外人に裏書譲渡し、右寒川は昭和三七年七月九日取引銀行である被控訴人に各第二裏書譲渡をして本件手形三通の割引(それが寒川に対するいわゆる手形貸付であることは右甲第五、六号証によつて認められる)をうけたこと、そして被控訴人田辺支店長楠井弘は同年七月一七日本件手形三通を株式会社伊予銀行に取立委任裏書をなし、右伊予銀行において昭和三七年八月八日(各満期)に支払場所に呈示して支払を求めたところ支払を拒絶されたこと、よつて被控訴人において本件各手形を受戻し現にこれを所持しているを各認めることが出来、右認定を左右する証拠はない。

(二)  控訴人健二は名宛人友井年昭に本件手形を交付したがそれは単に預けたにすぎないと主張するけれども、元来手形債務は証券の作成とこれを第三者に交付して流通におくことによつて発生するものであるから、約束手形の振出人たる控訴人健二がその自由意思により手形を名宛人もしくはその他の第三者に寄託中その者が寄託の趣旨に反して流通においた場合物的抗弁としての手形債務の発生自体を否定することは出来ないから、控訴人の右主張はそれを右の如き物的抗弁の主張と解する限りそれ自体理由がないものといわねばならない。

(三)  なお控訴人は被控訴人の前者である訴外友井、寒川等の各裏書は真の裏書でなくかくれた取立委任裏書であるというけれどもこれを認める証拠はない。もつとも前記(一)に認定した通り訴外友井は寒川に割引依頼のために本件手形三通を裏書交付し、寒川は被控訴銀行よりその割引(その性質は手形を担保とする貸付)をうけたものであり、該金員を訴外友井に交付したことは前記寒川証人の証言によりこれを認めることが出来るが、それがために訴外友井の寒川に対する裏書が取立委任裏書ということは出来ない(けだし取立委任裏書とすれば被裏書人は該手形を裏書譲渡することは出来ず割引の目的を遂げることができないのであるが、訴外友井は本件手形三通を訴外寒川に譲渡し、同人より更に割引の目的で裏書譲渡されることを予定して単純裏書譲渡したものであると認めうるからである)。

(四)  よつて控訴人健二主張の抗弁について検討する。そしてかりに同控訴人主張のように同控訴人が本件手形を訴外友井年昭に当初預けたものを結局詐取されたものであり、その主張のように同人に対して昭和三七年六月二一日頃本件手形の返還を請求し、なお同年七月一五日頃新聞紙上に本件手形の無効広告をしていたとしても、そしてまた訴外寒川が本件手形が詐取手形である情を知つてこれを取得したものであるとしての、被控訴人が本件手形三通を裏書により訴外寒川寿栄男より取得した際(それが昭和三七年七月九日であること前示認定のとおり)控訴人主張の如く手数料の前渡金支払のために訴外友井に振出されたもので、後に控訴人健二に対する融資又は同人との立木売買契約が締結されるにいたらずしてこれを控訴人に返還さるべきことを知悉していたと認める証拠はない。してみれば被控訴人が手形法第一七条の但書にいわゆる債務者を害することを知りて手形を取得したものとはいえないから、同控訴人の抗弁は爾余の判断をまつまでもなく失当といわねばならない。

第二、控訴人和子に対する請求について

被控訴人は本件三通の手形について控訴人和子は控訴人健二と保証の趣旨で共同で振出した旨主張するけれども全証拠(後記証人友井年昭の証言を含む)によるも未だ同控訴人が自己の意思でこれに署名(又は記名捺印)したこと又は右手形保証をしたことを認めることが出来ず、却つて、(証拠)を綜合すると、控訴人健二と同和子は夫婦であるが、控訴人和子はその所有名義の山林等多いのに比べ、控訴人健二は、もともと山崎弥五郎の養子となり同日和子と婚姻したもので妻和子にくらべわずかの山林しか所有しないので、控訴人健二が高知市に出張して大和旅館において本件手形を単名で訴外友井年昭宛に振出交付したところ訴外友井年昭はその場で控訴人健二に控訴人和子と共同振出にしてくれというので、控訴人健二は右要求を容れ、ほしいままに各振出人欄に控訴人和子の氏名を冒用してその名下に持合印を押捺してこれを同訴外人に交付したこと、その際控訴人和子は居合せず、本件手形振出について関知せず、結局控訴人健二において右訴外人の要求により何らの権限もなかつたのに控訴人和子の振出名義部分について青黄をして代筆せしめ偽造したものであることが認められる。

(省略)

第三、結論

してみれば控訴人健二は被控訴人に対し本件三通の約束手形金合計六〇〇万円とこれに対する各満期後の昭和三七年八月九日以降右支払済にいたるまで手形法所定年六分の割合による法定利息金の支払義務あること明らかで、これを認容した原判決(同控訴人に関する部分)は相当であるから、民事訴訟法第三八四条により同控訴人の控訴はこれを棄却する。また控訴人和子に対する被控訴人の請求は同控訴人の振出行為が認められぬ以上爾余の判断をなすまでもなく失当としてこれを棄却すべく、これを認容した原判決(同控訴人に関する部分)は相当でないから同法第三八六条により原判決中同控訴人に関する部分はこれを取消…。

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